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次の年――彼女と出会ってから二年目の春。僕は未だ彼女を待ち続けていた。 彼女を忘れることなく、想いも失われることはなく。 彼女はいない。と、瞬間、奇跡が起きた。 「……桜、が」 満開の桜。強い風。僕は昔に彼女が見たであろう光景を見、彼女が行ったという幻想の世界にいた。 想像しなくてよかった。僕の想像力が豊かだったとしても、その域を遥かに越えただろうから。 それは余りにも美しかった。一枚一枚は小さな花びらなのに、一斉に散るとこんなにも鮮やかに舞い踊っている。 乱舞、というのだろうか。うまく言葉には出来ない。実際に見た者しか味わえない……感動。 気付けば僕は泣いていた。暫くその場から動くことが出来なかった。 軅(やが)て、桜は散った。空中を染め上げた花々は地面に絨毯を作っている。 本来、まだ花を咲かせていたはずの木。幻想と引き換えに失われたモノ。 まだ、花たちは咲き続けていたかった? 彼女に言われなければ、そんな疑問も浮かんではこなかっただろう。
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