忘れさられし世界

6/11
前へ
/253ページ
次へ
………。 予想通り返事はない。 一度も禁書庫の本たちに語りかけたことはなかったが、薄々この結果は見えていた。 禁書である本たちには全て、意思を封印するための“鍵”がかかっているためだ。 禁書とされる本は、必ずといってもよい程、何らかの魔力を持っている。 ただでさえ危険な本たちに鍵をかけず一箇所に集めたともなれば、どんな大惨事が起こるか分からない。 だから鍵をかけるのだ。 私は次に、風の精霊たちに語りかけることにした。 風の精霊に語りかけるのは、極力避けたかった。 なぜなら彼らは気まぐれで本当の道を中々教えてくれない。 そして、やはり…… 「出口は、こっちだよ」 「違うよ、こっちさ」 「面倒臭いから、やだ」 三種三様の返事。 期待はしていなかったが、あまりにも想像通りだったので頭が痛かった。 普段は話し掛けると面白い子たちなのだが、こういう緊迫した状況では役に立たない。 一番労力を使ってしまうが私が歩いて来た道を辿ることにした。 この際、四の五の言ってられない。 こんな場所で一生を終えたくはない。 しかも眼鏡が無くて、帰り道が分からなくなったから餓死したなんて。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

705人が本棚に入れています
本棚に追加