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九七式戦がバンクを振って飛び出して行く。落とした増槽タンクからガソリンが細く棚引いて、キラキラ光っている。
「2時上空敵機!」
上部一番銃座から、敵機のお迎えの報告だ。野中五朗大尉はスロッルを引きながら、編隊に命じる。
「高度90(9000メートル)!」
ゆっくり操縦菅を引いて行く。
四発の金星改は何のストレスも無く大重量の機体を引っ張って行く。
最初にソ連機を見付けたのは瀬古曹長だ。
さすが、昼間でも星が見えると言うだけあって、目が良い。
相手はお馴染になってきた、I16だ。
いまや旧式と成った機体ではあるが、油断は禁物だ。
瀬古曹長の飛び出しで半数の護衛機がソ連機に向かっている。
ソ連機は約50機ほど、お互い編隊を崩し乱戦模様だ。
重爆の上昇を見届けて、板橋大尉は短く。
「突撃!」
残りの半数も乱戦の中に向かって行く。
二条の火線がI16のカウルを吹き飛ばし、シリンダーを粉ごなにする。
元エンジンだった物から、どす黒い煙が吹き出したかと見ると、炎と成って機体を包み込む。
まともに、20ミリ砲弾を喰らったI16は胴体を割られ、凧のように堕ちて行く。
翼を巨人の手でムシリ取られたような機体が在れば、機体には何の傷も無く堕ちるもの。ウッすらとガソリンの尾を引いたかと思えば、空中爆発を起こしバラバラに成る機体。
ほとんどの機体は炎と黒煙を引きながら、満州とシベリアの大地に堕ちて行く。
空中戦の終わりは突然のようににやって来る。
I16はあっと言う間に逃げたようだ。
落下傘が二つ、機体を2機喪ったようだ、操縦士が無事ならいいのだ。
機体の補充など何時も出来るのだから。
地上の部隊に二人の救出を頼む様、飛行長に無線を要れる。
後は、重爆撃隊がアフレーモフ鉄橋を粉ごなにするだけだ。
板橋大尉は、バンクを振り列機に集まれを命じる。
使える無線機があっても手信号や機体信号は欠かせないものだ。
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