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野中五朗大尉は編隊を高度90に上げると、身を乗り出すようにして眼下を見た。
幾筋もの黒煙が目に入る。
どちらの部隊の黒煙かは分からないが、戦闘機隊の話しを聞いた限りでは、敵ソ連機のものだろう。
できれば、味方機が一機も堕ちない事を祈るばかりた。
虫が善すぎる話しだと想うが。
そんな想いを立ち切るように、機内電話から航法士の声が入る。
「まもなくアフレーモフ鉄橋、進路サンヨンロク(346)」
野中は航法士の指示通りに進路を向ける。
爆撃高度はサンマル(高度3000メール)だ。もっと高高度からの爆撃でもいいのだが、精密爆撃には30が必須だ。
編隊無線で高度30まで落とすように命じる。
シベリア鉄道が視認出来る高度だ。
編隊と乗員に見張りを厳にせよと、無線と機内電話で命じる。
「目標まで3000」
航法士から報告が入る。
敵機のお迎えはまだ無い。
戦闘機隊が粗方片付けて繰れたのかもしれない。
突然機体が揺れる、黒い花が咲いたように、幾つもの黒煙が宙に湧き上がる。
対空砲火だ。
かなり密度が高い。
ソ連軍も準備は怠割らない様だ。
幾ら頑丈に作られていても、当たれば終わりだ。
まぁ、そうそう当たるものでもない。
飛行機乗りには、当たらない方がいいのだが、今後の課題としなけりゃ成らない。
味方の対空砲火の命中率の向上は必須だ。
「目標視認」
爆撃手からの報告だ。爆撃手が細かく指示をだす。
「チョイ右」
「もうチョイ右」
指示従いながら操縦悍を操る。
「もうチョイ右」
「ヨーソロー」
ここからは、何があっても操縦悍を動かすことは出来ない。
「爆弾倉開け」
爆撃手が一人言の様に手順を進める。
「投下!」
ゴン、軽い音を立てながら、ここまで運んだ25番が一発また一発と目標のアフレーモフ鉄橋めがけ、落とされて行く。
鉄橋も何も爆弾の爆煙で包まれて行く。
「投下完了」
爆撃手の報告が入る。編隊に無線90を告げながら、操縦悍を引く。
爆撃の成果は明日の偵察で解るだろう。
今は編隊を安全圏に持って行くだけだ。
高度90に達したところで、
「各機知らせ」
「二番機、以上無し」
全機以上無しの知らせだ、作戦は半分成功したと言える。
後半分は偵察隊が教えてくれるだろう。
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