戦火

11/12
前へ
/46ページ
次へ
野中五朗大尉は編隊を高度90に上げると、身を乗り出すようにして眼下を見た。 幾筋もの黒煙が目に入る。 どちらの部隊の黒煙かは分からないが、戦闘機隊の話しを聞いた限りでは、敵ソ連機のものだろう。 できれば、味方機が一機も堕ちない事を祈るばかりた。 虫が善すぎる話しだと想うが。 そんな想いを立ち切るように、機内電話から航法士の声が入る。 「まもなくアフレーモフ鉄橋、進路サンヨンロク(346)」 野中は航法士の指示通りに進路を向ける。 爆撃高度はサンマル(高度3000メール)だ。もっと高高度からの爆撃でもいいのだが、精密爆撃には30が必須だ。 編隊無線で高度30まで落とすように命じる。 シベリア鉄道が視認出来る高度だ。 編隊と乗員に見張りを厳にせよと、無線と機内電話で命じる。 「目標まで3000」 航法士から報告が入る。 敵機のお迎えはまだ無い。 戦闘機隊が粗方片付けて繰れたのかもしれない。 突然機体が揺れる、黒い花が咲いたように、幾つもの黒煙が宙に湧き上がる。 対空砲火だ。 かなり密度が高い。 ソ連軍も準備は怠割らない様だ。 幾ら頑丈に作られていても、当たれば終わりだ。 まぁ、そうそう当たるものでもない。 飛行機乗りには、当たらない方がいいのだが、今後の課題としなけりゃ成らない。 味方の対空砲火の命中率の向上は必須だ。 「目標視認」 爆撃手からの報告だ。爆撃手が細かく指示をだす。 「チョイ右」 「もうチョイ右」 指示従いながら操縦悍を操る。 「もうチョイ右」 「ヨーソロー」 ここからは、何があっても操縦悍を動かすことは出来ない。 「爆弾倉開け」 爆撃手が一人言の様に手順を進める。 「投下!」 ゴン、軽い音を立てながら、ここまで運んだ25番が一発また一発と目標のアフレーモフ鉄橋めがけ、落とされて行く。 鉄橋も何も爆弾の爆煙で包まれて行く。 「投下完了」 爆撃手の報告が入る。編隊に無線90を告げながら、操縦悍を引く。 爆撃の成果は明日の偵察で解るだろう。 今は編隊を安全圏に持って行くだけだ。 高度90に達したところで、 「各機知らせ」 「二番機、以上無し」 全機以上無しの知らせだ、作戦は半分成功したと言える。 後半分は偵察隊が教えてくれるだろう。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

330人が本棚に入れています
本棚に追加