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2人でぼろぼろになって教室に戻ると、男子たちの歓声に迎えられた。
「やったじゃねーか」
「一口でいいから俺にもわけてくれよ」
などといろいろな声が上がっている。
俺は小さく右手をあげてそれに応えた。
宏之と一緒に何人かの男子のグループに入って机を囲む。
「うらやましいだろ、コロッケバーガー」
宏之はコロッケバーガーを売り切れに間に合わなかった友達に自慢している。
俺は我慢できずにさっさと袋を破る。
ソースのいい匂いが漂う。
「うめぇ」
「おいおい、いくらうまいからって泣くなよ」
「ばかやろう、これは泣くほどうまいんだよ」
俺は涙を流した。
このうまさは普通じゃないのだ。
「まぁいいけどな。確かにうまかったし」
「へっ」
鼻で笑った宏之もかぶりついて涙を流すのだった。
『お昼の放送です』
くだらない雑談をしていると、高く澄んだ声がスピーカーから流れてきた。
それは聞いているだけで心地よくなるような声。
きれいな発音から滑らかに原稿を読んでいく。
『続いて、皆さんは今日がどんな日か知っていますか?実は、今日は矢田先生の誕生日です。皆さん、もしも廊下などですれ違ったら声を掛けてあげましょう。ちなみに、年齢については矢田先生から固く口止めされているので、興味のある人は調べてみてください』
ただの一度もつっかえたりすることなく、その声は校内に響き渡った。
特に興味のある内容ではなかったけど、俺はしばらくその放送に聴き入っていた。
『………最後に、保健委員は放課後保健室に集まってください。以上でお昼の放送を終わります。今日の担当は、1年C組、河野佳美でした』
放送はあっという間に終わった。
誰もほとんど気にしている感じはしないけど、俺にとっては至福のときだったりするのだ。
この河野佳美というのが俺の片思いの相手である。
何がいいってあげ始めたらキリがなくなるけど、とりあえず一番は声だと思う。
まさに放送委員に相応しい。
「慶太、ぼーっとしてどうしたんだ?いらないならもらってやろうか?」
ハッとしてスピーカーから視線を戻すと、みんなほとんど食べ終わっていた。
「バカ言うな」
俺は泣くほどうまいコロッケバーガーを一気に口に押し込んだ。
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