タイム0

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 今日もいつもの遊歩道を散歩していると、1匹のバトミントンの羽根位の大きさの虫がひっくり返っているのに気が付いた。 (なんだこりゃ。でかいな。生きてんのか?)  死んでたら、移動させてもしょうがない。  とりあえず、拾ってつついてみた。 (おやじ虫じゃん!)  おやじ虫とは、田舎のオフクロがそう呼んでいたコフキコガネという虫で、夏には結構頻繁に出没するコガネ虫の仲間である。  ヒゲが立派で偉そうなおやじのようだからとの事でおやじ虫なんだそうだ。  しかし……、  こいつは通常のおやじ虫より一回り大きい。偉そうなヒゲ(触覚)も細いのが生えてるだけ。 (やっぱり、死んでるかな)  試しにヒゲをつついてみた。  ピクッ  動いた。手足がもぞもぞと動きだした。 (良かった。どこか、手頃な木の所まで連れてくからな)  俺はおやじ虫を上着に貼り付けて歩き出した。 『ありがとう!』  突然、声が聞こえてきた。 『え?』 『私だ。君の胸に張り付いている。タイムボヤージ虫だ』 『え!?タイムおやじ虫』 『まあそれでもいいだろう。ホントに助かった。自力で起きあがる事が出来なくなっていたんだ。  優しき人間よ。ぜひ君にお礼がしたい。時間はあるか?』 『なんだなんだ!?』 『ちょっと待ってろ』  おやじ虫の細い触覚が少し伸びると、先が左右にまるでトナカイの角の様に開いて“ブルブル”っと震えた。  瞬間、何やら上も下もわからない歪んだ空間に私は立っていた。
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