第一話 『狂気』

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第一話 『狂気』

「言い残す言葉を与えるのも惜しい。今すぐ死ぬがいい」  中年太りの下っ腹の突き出た男の背後から首筋、つまり頸動脈辺りにブーメラン状に反り返している剣を突き付ける。『嫉妬刀』、読みを『エンヴィーソード』と言う。  使用者は龍王。顔全てを仮面で隠した青年である。  彼が今こうしているのは依頼の為である。それは数日前に遡る――――        ◆  一人の男が訪ねて来た。中肉中背の至ってシンプルな、何処にでも居そうな男だった。  よく依頼をする人間には電話番号を教えて、そこから依頼を受けるようにしている。  直接来るのはそれ以外だ。  大粒の汗を流しているところを見るとおそらく庭で迷っていたのだろう。素人だ。  門前にもインターホンはある。もちろんそこからこの男が来るのは分かっていた。  しかし、案内なんてしない。それも依頼をさせる為の試練なのだ。 「ぐっ……はぁ。大変だな、ここは。まぁいい、依頼を受けて貰いたい」  男は一通り息を整えた後依頼を口にした。 「私はある世界の大財閥の主の代わりとして来た。依頼は……」 「却下だ」  依頼を聞く前から拒否した。 「受付は長玄という男にしろ。それからもう一つ」 仮面の奥に小さな憤りを宿らせて龍王は言う。
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