脱出

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「……薄ら笑い浮かべてないで、何か言ったらどうなの」  レイカは、ひろみさんにパイプ椅子を持って来させ、足を組んでドッカリ座り、腕も組んで笑っている。  今日は黒に白の細いストライプが入ったスーツ、靴は相変わらず折れそうな高いヒール。 「あんたの男、別の女と噂があるみたいね」 「あぁ、そうみたいね」 「えらい余裕ね、愛されてる自信があるの?」  雄二を信じる事よりも、マスコミを信じない気持ちの方が強いだけ。  週刊誌なんて、無理矢理こじつけてネタにするんだもの。 「大沢雄二も、とんだカスつかまされたね」 「……そんな事言いに来たの?」  レイカは、私を見据えた。 「全然思い出さないみたいね、あんた」  だから、何をよ。 「ま、私とあんたは一回しか会った事のないような気がするから、無理もないけど」  ……私、今まで会った人全員の顔と名前、覚えてるほど記憶力良くねぇよ。 「一回しか会った事ない人間に、どうしてここまでするのかしら」 「あんたを恨んでるから」  だから、何で恨んでるんだよ。 「……あんたの中では、何でもない事だったのかもね」 「だから何なのよ」  返事をしなかった。  この女、楽しんでる。  悩んでる私を見て、楽しんでる。 「あんたも、いつまでここで暮らしてられるかしらね」 「……何が言いたいの」 「ここのエアコンも空気洗浄器も、ボイラーも水道も私がスイッチに触ったら止まるって事」 「そんな事したら、舌噛み切って死んでやる」  レイカは私を睨み付けた。 「死体の処理って大変よ。さる教団だって骨粉にする機械作ったくらいだもの。まして私みたいな顔の広がった人間殺してごらん、えらい騒ぎよ」  脅してるつもりだけど、この女には通じないだろうな。 「そうね、人が死ぬなんて事、あんたにしてみたら軽い事ね」  私はレイカを睨み付けた。  どこまで知ってるか知らないけど、それ以上言ってごらん。呪い殺してやる! 「いい事教えてあげようか?」  少し顎をしゃくるようにして、上から見下ろす様にして言った。 「そういう機械作る様な技術持った人間なんて、世の中にはいっぱいいるの、行動に移してないだけ。もちろん私の部下にもね。あまりいい気にならない事ね、ロクな死に方しないよ」  この女、本気だ。  本気で私を恨んでる。
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