影の主

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 同じ家にいて他人。娘とは戸籍上の事。ずっとそう思ってたから、自分の気持ちを伝えられなくなってた。いつの間にか。 「……私も、両親はいません……」  ひろみさんは消えそうな声で言った。 「……死んじゃったの?」  コクン、と頷いた。 「安積さんの本当のお母様とは、連絡取り合ってるんですか?」 「……たまには」 「でしたら、事務所でお母様に連絡取ってるかも……」 「それはない」  はっきり言い切ったので、彼女は少し困惑した様だ。  事務所が、お母さんとコンタクトを取る様な事は絶対にしないだろう。マスコミに嗅ぎ付けられるのを、何より恐れている。 「……ありがと、それなりにおいしかった」  ため息をついてしまった。昔の事を思い出してしまって、気分が滅入ってしまった。  ──やだ、やめて、嫌! 「……辛い経験してるんですね……」 「誰にでも忘れたい事の一つや二つあるよ」 「……そうですね、一つや二つなら……」  彼女は遠い目をした。 「そんなに忘れたい事ばっかりなの?」 「その方が多いです」  そうね、両親が死んで、あの女の言いなりになって、犯罪にまで加担させられてるんだもの。 「あなたはいい人よ、私がここから出たら警察にそう言う」  彼女は下を向いた。 「私はなんの取り柄も無いし、安積さんみたいに綺麗じゃないし……」 「そんな事ないよ、私より性格いいと思うよ。そうね、私も嫌われてるかもね、女優仲間に」 「そんな……」 「……なんたって、元いじめっ子だし」  そう、いじめっ子だった……。        
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