脱出

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 私を殺す事なんて、良心の呵責さえ感じないんだ。 「それに身元が分かるような死体の捨て方するほど、私はバカじゃない」  レイカは立ち上がった。 「今のあんたにはたっぷり時間あるんだから、自分の事でも考えれば? いい機会よ」  ヒールの音も鮮やかに、颯爽と部屋を出て行った。  あの女、優越感に浸っている。どうしてだか知らないけど、憎んでる私をここに閉じ込めて。  でも私はあの女とは一回会ってるんだ。  どこで会ったんだろう?  監禁されるような事したんだから、記憶に残っててもいいはずなのに。  あの女の口ぶりじゃ、割と昔に会ってるみたい、私もそう思うけど。  いつ? どこで?  東京に来てからじゃない、まだ田舎にいた頃のような気が……。  雲仙にいた頃? 安積の家に行ってから?  ……駄目だ、思い出せない。なんか頭に、フィルターが掛かってるみたいな感じがする。  あの女、本当に私を殺しかねない目してた。  そこまで恨まれるなんて、私一体何したのよ。  ひろみさんが部屋に入ってきて、レイカが座っていた椅子を片付け始めた。 「……ご苦労様」  私は鉄格子に寄り掛かった。 「……『危ない情事』、代役が決まったそうです」 「……そうか。決まっちゃったか」  こうなると、次のドラマも配役変更確実ね。 「ね、ひろみさん」  彼女は黙って振り返った。 「……レイカって、何者なの? えらい金と権力持ってるみたいだけど」  私の部下って言ってた。  あの銃持ってる黒いスーツの大男動かせるんだ。中途半端な階級の人間じゃない。  それにこんな鉄格子付けさせる事出来るんだ。よほど金積んで抱き込んだか、あるいは……。 「……藤沢財閥はご存知でしょ?」 「もちろん」 「そこの社長代理です」        
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