脱出

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 アロマキャンドルに火を点けた。  ローズウッドの香りは、この部屋に合わない、優美な香りを漂わせている。  藤沢財閥。  日本で五本の指に入る、大企業。世界中に幅を利かせている。  その気になれば、警察庁だって買収出来る。  そこの社長代理。  社長が倒れて、あの若さで、しかも女で代理ね。結婚するまでとは言え、いくら娘を可愛がってるからって無理があるんじゃない?  ひろみさんの話じゃ、あの女、かなり有能らしいけど。  しかし、なんで私がそんな大財閥の有能社長代理に恨まれるのよ。  いくら子供の時に一回きり会っただけだって、そんな金持ちのご令嬢だったら、覚えててもよさそうなもんだけど。  エッセンシャルオイルが形を変えて回ってるのを黙って見ていた。  ……もしかして、本当の娘じゃないとしたら?  私に会った後で、何かの事情があって、藤沢の家に入ったんだとしたら?  そうしたら、名字だって変わってるだろうし。  鳥肌が立った。  財閥? 金持ち?  ──あの子ね、ママの話ば私生児って。  ──どっかの金持ちの社長かなんかが囲ってるらしいと。  関係があるの?  まさか、考えすぎだ。  蒸気を吸い込んだ。落ち着かせるために。  私はローズウッドが1番好きだな。  キャンドルの炎を見ていた。空気清浄器の風のせいで、火がゆらゆら揺れている。  ……火?  鉄格子の向こうのドアを見つめた。  あれ、木よね。  確か階段があって、物置があって……。  ──見事な警備を備えています。機械も人も一流です。  そう。成功する訳ない。  下手したら、死んでしまう。  私はライターを握りしめた。        
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