その家

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 ──お母さん、かき氷食べよ。  ──さっきアイスクリーム食べたばっかりと。お腹痛くなったらどうすると。  子供の頃、縁日が好きだった。  母親と手をつないで、必ず風船を買ってもらった。宙に浮く風船は、何とも魅力的だった。  ──お母さん、風船飛んでいったらどうすると。  母親の手と、右手の風船の紐をぎっちり掴んでいた。  その手が、離れる事はないと思っていた。  日が暮れて、風も冷たくなり始めた時、二人とも地獄に帰る事を実感していた。  ──帰ろうか。  縁日での楽しい時間は、現実をより残酷な物に変えた。  家に、帰りたくない。  それは、母親も同じだったろう。それが分かっていたから、口に出した事はなかった。  ……お母さん。      頬に、暖かい感触がした。
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