その家

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「この雑炊、ひろみさんが作ったの?」 「そうです、美味しいですか?」 「うん、なかなか」  彼女ははにかんで笑った。 「今日シフォンケーキ作りますけど、甘い物大丈夫ですよね」 「大丈夫。専業主婦向きね、あなた」 「そう、ですか?」  家事も万全にこなすし、気も利いてるし。 「彼氏、いないの?」 「いないです」 「好きな人は?」 「いないです」  寂しいね。 「どういう人が好きなの?」 「優しくて、一緒にいて、楽しい人」  想像した通り、ありきたりの答え。 「……昔、中学の時だけど、好きな男の子がいたんです。人気者で、誰にでも優しくて……」  彼女は遠い目をして、そして下を向いた。 「でもその男の子には好きな子がいたんです。その子はやたら顔と頭が良くて。定期テストなんて一、二番争ってたし、よその学校の男子生徒からも交際申し込まれたりしてて。あげくにS大の法学部に首席で受かっちゃった」  ……何者? 朝倉南かよ。 「私なんか、全然勝ち目無いなって思ったの。彼、その女の子と同じ学校に行きたいばっかりに一生懸命勉強して……」  彼女は少し首を傾けながら、顔を上げた。 「……ひろみさん?」 「……私、その女、憎らしかった……」  私は身震いした。  押し殺した様な声。  目は、焦点が合ってるのか合ってないのか、視点がいまいち分からない。  おとなしくて、純情そうなひろみさんとはとても思えない。寒気すら感じてしまった。  こんな表情、女優の私でも作れない。 「ひろみさん、美味しかった……」 「そうですか? ありがとう」  彼女はニッコリ笑った。今までの彼女だ。 「シフォンケーキ、作ったら持ってきますね」  彼女はお盆に食器と鍋を乗せて、部屋を出て行った。  不穏な物を感じたが、私はあまり深く考えない様にした……。        
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