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それからは、奇妙な生活が続いた。
長い時間一緒にいると、情が湧いてくるのだろうか?
ひろみさんは私にお菓子作りや料理を教えてくれた。さすがに彼女は手早かったし、彼女の作る物は美味しかった。私はひろみさんに化粧法や、洋服の着こなしを教えてあげた。顔立ちは割とはっきりしているので、とても化粧映えした。彼女は痩せているので、意外と何を着ても似合っていた。モデルにならないかと言ったら断固として否定した。絶対いい線行くと思うのに……。
彼女はとてもニコニコしていて楽しそうだった。二人でヘアマニキュアを付けて、シャワーで洗い流し、水を掛け合ってはしゃいだ。
同じベッドで寝起きして、修学旅行みたいな雰囲気だった。レイカの事も、これから先の事も考える事はあまりなかった。監禁の生活に、すっかり慣れてしまっている。
それはそれで、別にいいかななんて、思ったりした。でもレイカが黙ってる訳はない。
ひろみさんは四六時中ここにいる訳ではないので、彼女が鉄格子をくぐって外に出る時は、ものすごく悲しかった。
取り残される、自分は出れない苦しみ。
……私がここから出たら、ひろみさんはどうなるのだろう?
法律には詳しくないけど、無罪放免て事はないだろう。
そう考えると、彼女が可哀相になった。
ある時、廊下を歩いていて、ちょっと気になった。
この部屋、何だろう?いつも鍵が掛かってる。ただ単に使ってない部屋なのかな。
ドアノブに触ってみた。やっぱり開かない。
「怜香さまの部屋です」
ぎょっとして振り返った。いつの間にいたの?
「書斎みたいな感じで使ってます。子供の頃、ここに来る時はこの部屋に泊まってました」
「今は、書斎?」
「学生の時は長期の休みに入るとここの別荘へ来て勉強してました、その延長みたいな物になってます。要するに、仕事部屋」
「仕事関係の物があるから、鍵が掛かってるの?」
「……嘘にはなりませんね」
不透明な回答。
「中には入れませんよ。多分安積さんは」
「は?」
「あなたか中に入れる時は、怜香さまが決断する時だと思います」
決断?
気が付くと、鉄格子の向こうから、男二人がこっちを見ていた。
「離れましょう、落ち着きません」
彼女は歩いて行った。
決断? 何を決断するの? 私を殺す事?
私はレイカの部屋のドアを見つめた。
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