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 黒いスーツの大男と、今日はグレーのスーツに、相変わらず折れそうなヒールを履いたレイカが、物凄い目付きで立っている。  レイカは、目付き同様、物凄い勢いで歩いてきて、右手を挙げた。ひろみさんの頬にバチンと甲高い音がして、彼女は倒れてしまった。 「何するのよ! 大丈夫?」  ひろみさんは左の頬を押さえて、下を向いた。 「ちょっとあんた、何なのよ、いきなり……」  駆け寄ろうとした私に、厳つい大男がピストルを突き付けた。 「……どうして火なんか渡したのよ」 「すみません……」 「おかげで、ここに連れて来るハメになったじゃない」  ひろみさんは今にも泣きそうだった。 「誰のおかげで生活出来てると思ってるの、恩知らず」 「そんな言い方はないでしょ」  もう何なの、この女は! 「あんたね、朝から晩まで仕事させて、自分の身の回りの事ぐらい自分でしたらどうなのよ、おまけに犯罪にまで加担させて」 「あんたに人の道教える権利ないわよ、自分のした事考えてみたら?」 「何だって?」 「ひろみ、今度こんなヘマしたらあんたも閉じ込めるよ、昔みたいに」  昔? 「あんたなんかパパのお情けで家にいれるんだから」  ひろみさんは動かなかった。  レイカは黒服の男に何か言って、部屋を出て行った。ひろみさんの肩を揺さぶったけど、彼女は動かなかった。  廊下に出ると、レイカは鉄格子の扉を出ようとしていた。走って追い掛けたら大男がピストルを突き付けたけど、私は構わなかった。  扉が締まり、ガチャンと鍵の掛かる音がした。私はしがみついた。 「レイカ!」  レイカは静かに振り返った。 「ここから出たら、真っ先にあんたを殺してやる!」  すると鼻で笑った。 「楽しみにしてるわ、大女優」  スタスタと歩いて行ってしまった。覚えとけよ、独裁者!
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