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 部屋に戻ると、ひろみさんはまだうずくまっていた。 「大丈夫?」  返事をしなかった。 「ひろみさん?」  顔を覗き込んでみると、目の焦点が合ってるのか合ってないのか分からない。  ただ顔が獰猛で、体が微かに揺れている。 「ひろみさん……?」  彼女はやっと私に気が付いた様だった。 「大丈夫です……」 「……そう」  彼女は立ち上がって、ジーンズの埃を払った。 「ね」  ひろみさんは顎をあげた。 「昔みたいに閉じ込めるって、どういう事?」  彼女はまた下を向いた。 「……言いたくないなら、別にいいけど……」 「……物置に閉じ込められたの、昔」 「……レイカに?」 「ある人に……」 「ある人って? どうしてそんな事されたの?」 「ガラスのオルゴールを割ってしまったんです」 「レイカの?」 「いえ……」  ひろみさんは、私の事なんかどうでもいい様な感じだった。ただ、自分の感情を押し殺している様に見えた。  どうもよく話が見えないが、そんな事はどうだっていい。  私は背中から彼女を抱きしめた。 「早くあんな女から離れよう。仕事見つけて、アパートかなんか探せばいいじゃない」  彼女は目線をずらした。 「人間はね、幸せになる権利があるの、誰でも」  そう、この言葉に、どれほど慰められたか。  私やお母さんみたいな人でも、幸せになる権利はある。弁護士さんは、そう言ってくれた。  ひろみさんはレイカの命令でこんな事してるだけだもの。充分幸せになっていい人だよ。 「ここから出たら、温泉にでも行こうよ。あ、スパの方がいいな」  彼女はやっと顔を上げた。 「二人で、綺麗になろうよ」 「安積さんは、充分綺麗です」 「そんな事ないよ、化粧と照明で化けてるだけよ」  私は、少し乾燥している彼女の頬に自分のほっぺをくっつけた。 「エステって、気持ちいいんだよ」  すると彼女は、やっと少し笑った。        
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