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「いい匂いですね」
「でしょ? ラベンダーは応用範囲が広いし、初心者向けなの。リラックス効果も高いんだから。寝る時は最適よ」
「グレープフルーツ? これもいいですね。あとこれは……」
「ローズ。クレオパトラが愛した香り」
「へぇ……」
「バラの香水風呂に入って、寝室はバラの花で何10cmも敷き詰められてたって」
「はぁ……」
「彼女は香りを使うテクニックが抜群だったって話。アントニーに会う時は船ね中いっぱいにクローブを香らせたって」
「クローブ?」
「気分を高揚させる事ができるの。金持ちのする事はわからないわよ」
本当、わからない。
「これは……?」
「ベルガモット。オレンジみたいでしょ」
ひろみさんは、くんくんとエッセンシャルオイルを鼻に当て、視線は宙をさ迷った。
「どうしたの?」
「昔、ある人がこの匂いのシャンプーをしてて……」
「ベルガモットの? じゃ、作ったのかな、シャンプー」
私は時間がないから、そういう類の事はした事がない。
シャンプーや化粧品は市販の方がいい効果がありそうだし。
何より、手作りは嫌いだ。面倒臭い。
「で、誰、そのある人って」
ひろみさんは目線をずらした。私も、それ以上は聞かなかった。
すると、ドアの向こうから人の声がした。
「なんで鉄格子なんか嵌めてんだ?」
聞いた事のない声だ。男の声。
「土地所有者からまた事情が漏れてるって苦情が来たのよ、管理どうなってんの!?」
「それには細心の注意を払う様に言ってある、でもこれを知ってる人は……」
レイカと……。もう一人は誰だろう?
会社の役員とかかな。
「専務ですよ」
ひろみさんは静かに言った。
「社長の弟さんのご子息です」
レイカの従兄弟ね。
しかし年齢層の低い会社だな。
私はドアに向かって歩いて行った。
「あ、安積さん」
勢いよくドアを開けると、例のレイカの部屋の前に、レイカと従兄弟の専務らしい男と、いつもの厳つい大男が立っている。
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