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従兄弟の専務だという男は、30過ぎくらいで切れ長の目をしている。アゴが少ししゃくれていて、痩せている。肩幅は割と広くて、神経質そうな感じだ。私を見て、少々驚いた様だ。
「……ここに隠してたのか?」
半分呆れたような顔で、男はレイカに言った。
「連れてきたくて連れてきた訳じゃないよ」
「だろうな、お前がここに連れて来るとは……てかお前、あの部屋に置いてるのか?!」
「うるさい、あそこしか空いてないんだよ!」
……あの部屋、何かあるの?
「今あんたの相手してる暇ないの、ひろみとママゴトでもしてなさい」
レイカは苛立っている様だ。
「……色々大変みたいね」
少し笑いを混ぜて言ってやると、レイカは眉間にシワを寄せた。
「浮かれ女優とは訳が違うのよ」
「身近な人間が味方だと思ったら大間違いよ」
「何を訳の分からない事言ってるのよ、あんたみたいな頭の軽い見かけ倒しが」
レイカは乱暴にドアを開けて、従兄弟の専務と中に入って行った。大男は外に立っている。外は少し曇っていて、そう明るい訳でもないのに、相変わらずサングラスをしている。
「あんた、あの女のボディ・ガード?」
「向こうへ行ってろ」
おとなしく部屋へ帰る事にした。この大男相手じゃ、何も出来ない。
部屋の中に、ひろみさんはいなかった。
……仕事でトラブルが起きたみたいね。
情報が洩れるとかなんとか……。うまく運んでないんだ。
このまま事態が良くない方に転がれば、私の事なんか相手にしてる暇なんてないはず。ここから出るチャンスかもしれない。
「でも、そんな……」
「いいチャンスよ」
ひろみさんは下を向いた。
「このままでいいの? あんな女の言いなりなって」
困惑している様だ。まぁ、彼女の性格からして無理はないけど。
「まだ若いんだから、いくらでもやり直しがきくわよ」
そう、まだ未来はある。
世間の風当たりは強いだろうけど、こんな所にいるよりはましよ。
「人間はね、誰でも幸せになる権利があるの」
「……そうでしょうか」
「当たり前じゃない」
ひろみさんは、少しきつい目をして横を向いた。
「……私でも?」
「そう」
「それがもし……」
「え?」
「いいえ……」
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