過去

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 中からは、オレンジに似た、ベルガモットの匂いが微かにした。  床はフローリング、カーペットは無い。  正面の窓には細かい花柄のカーテン、その奥にレースのカーテンがあった。  棚には本がぎっしり詰まっている。難しそうな本ばかりだ。  一人用の赤いソファーに、テディベアのクッション。私がいる部屋にあるのと同じだ。なんかあれだけ、雰囲気が違う。  壁紙は私がいる部屋と同じだ。右側の壁に、四角いテーブルがある。  その上に、ガラスの……。オルゴールみたいだ。そして線香、線香立て。花瓶に花。何の花かはわからない。なぜそんな物があるのだろう。  それの脇の方に、ステンレス制のデスク。ノート型のパソコンがある。 バラの入った一輪挿し、CDロムやファイル。  そして電話があるのを発見した。  電話。  外に繋がる!  レイカとの関係も不思議だけど、自由になる事が先決だ!  電話に駆け寄った。警察? 事務所の方がいい。  受話器に触ろうとしたら、手が何かにぶつかって床に落ちた。思わず目が反応した。すぐに受話器を取ろうとしたが、頭の中が床に落ちた物でいっぱいになった。  ……え?  ゆっくりそれを見つめる。  白い縁の写真立。  中年と言うにはまだ早いかもしれない、割と綺麗な顔立ちの女と、二人の女の子。一人は右の頬にほくろがある。眉が太く、目も割ときつめで、どことなく面影を残している。  そして、もう一人。  忘れたくても忘れられない、私の人生で無かった事にしたい、二人のうちの一人。いつも夢の中で座り込んでいる女の子。私が知ってる頃よりは少々幼い。  香澄?  どうして香澄がい……。  その時、頭の中で何かが弾けた。今まであった壁が、一気に崩れ落ちた。  あ。  怜香!!  そうだ、思い出した!あの女は香澄の……。 「……やっと思い出したの?」
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