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鉄格子の向こうに、スーツを着た厳つい大男と、女が立っている。
女は、二十歳過ぎくらい? 十代だろうか。
地味な感じの人だ。とりたてて自分を飾ろうともしない、する気も無いといった様な感じの。
小柄で痩せていて、目が大きい。醜くはないけど、特別綺麗という顔でもなかった。隣の男が大きいせいか、子供みたいに見える。
「……ご気分は、どうですか」
女が、口を開いた。低い声だった。
「冷蔵庫に、一通り揃えてあります。喉が渇いたら飲んで下さい、そこに呼び鈴があります、何かあったら呼んで下さい、すぐに来ますから」
茫然としていた。理解が出来ない。
「洗面所に、籠があります、洗濯物はそれに入れて私に渡して下さい、チェストの中に着替えがあります」
黙って聞いていた。
「要り用な物は言い付けて下さい、なるべく用意します。テレビは用意しました、暇潰しにはなるでしょう」
「……私に、ここで生活しろって言うの?」
女は黙っていた。
「ここ、どこなの?どうして私こんな所にいるの?」
女は下を向いた。
「あなた、誰なの?あなたが私をここに連れてきたの?」
「私ではありません」
「それじゃ誰なの? どうしてこんな事するのよ!」
「私はあなたのお世話をしろと命じられただけです」
「誰に?」
女は返事をしなかった。私は鉄格子にしがみついた。
「誰なのよ!」
「……私が、お世話になっている方です」
「だから誰なの」
「余計な事は詮索するな、自分の身が危なくなるだけだぞ」
厳つい男が声を出した。
「あんたが私をさらったの?」
「そうだ」
「どうして?」
「そう命じられたから」
……誰に? どうしてこの人達、言いなりなの?
「どうやってさらったのよ」
「簡単だ、堂々と玄関から入って行って、クロロホルムで気が付かない様にした」
だから、記憶が無いんだ。
「食事は8時、12時と、7時間に運びます」
厳つい男と、女は出て行った。ドアの向こうは暗かった。
何? 何なの?
気が付いたら悲鳴を上げていた。込み上げて来る恐怖と狂気を吐き出す様に。
鉄格子を揺さぶった。大声を張り上げた。助けて、ここから出して。
どの位の時間、そうしていたのだろう。泣きながら座りこんだ。誰か助けて。
その声と願いは、誰にも通じなかった。
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