不幸せな少女のある日

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男は一瞬動きを止め女を一瞥してから聞こえなかったかのようにまた私の方へ向きなおした。 しかし、私は男の言に付き合う義理もないのでさっさと部屋からでて玄関に向かっていた。 別に男が怖いわけでも、まして怒っているわけでもない。 ただ純粋に、時間の無駄だと思っただけだ。 「おい!二度と私の体裁を悪くするようなことをするんじゃないぞ!」 男は待てとも言わず、追いかけてもこない。 無駄に広いこの家はリビングから玄関まで結構な距離がある。 少し急げば追いつけないなんてことはないが、男も女も私とは極力関わろうとはしない。 というよりもこうして言葉をかけられるのでさえ何年かぶりだった。 私はこの家ではいないも同然の存在なのだからあたりまえのことだろう。 たまたま今日はじめて煙草を吸い、そこをたまたま警官に見つかり、補導されて、親を呼ばれて、そして今にいたる。 最初は来るはずないと思っていたからあの男が姿を見せたときは少なからず驚いたが、 よくよく考えてみると戸籍上での自分の子どもが補導されて迎えに行かない親などというのは体裁が悪いからだろう。 私はブーツを履いて、 男の声を聞き流しながら暗い寒空の下へ出て行った。 三分ほど歩いてから私はあることに思い至り、そして今日はじめての後悔の念をくちにした。
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