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女はナイフを拾い上げ、自分の胸に突き立てた。
そして、ナイフを頭上に掲げ、一気に突き刺そうとしたが、アーノルドに阻止された。
「何でよ……何で邪魔するのよっ!!」
「私は本当の生きる意味を知った!!」
「私には関係ない!! 生きる意味なんて──」
「私は君に出会うために今までを生きてきたんだ!」
アーノルドは暴れる女の腕を掴みながら、そう断言した。
女は暴れるのをやめた。
数秒の間、小屋の中を静寂が支配する。いや、静寂は刹那的なものだったのかもしれない。
静寂を破ったのは、女だった。女は笑った。笑うしかなかった。その目には涙もあった。
「私に会うために今までを生きてきた? ふふふ、おかしな人。本当におかしな人」
「ああ、一目見たときから運命を感じた」
「本当に馬鹿な人よ。あなたみたいな人をこのままにしておいたら、私の二の舞になりかねないわ」
「二の舞? そんなことより、名前を教えてはくれないか?」
女は彼に名前を教えた。
アーノルドは国には帰らなかった。
そして、北の山から魔女は消えた。山を包んでいた悲しみの雪も消えた。
アーノルドは守ってきた国を失ったが、本当に守るべきものを得た。
女は魔女としての力と生命を失ったが、アーノルドさえいればそれでよかった。
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