シルビアとソラリス

6/12
前へ
/27ページ
次へ
      *** アーノルドは目を覚ました。死の幻想に呑み込まれる寸前に1人の女に助けられた。 「ここは……?」 「気が付いたのね。このような雪山に何をしに来たのかしら? アーノルドさん」 殺風景な部屋の中には、果物の沢山入ったバスケットを持った1人の女がいた。 小柄で可愛らしい女性だ。その裏腹、口調はかなり刺々しく冷えきった声だった。 しかし、アーノルドはそのようなことは気にならなかった。ただ、別のことに何かしらの違和感を感じていた。 アーノルドは目の前の女性に訊いた。 「なぜ私の名前を?」 「あなたが私を知らなくても、私は貴方を知っているからよ」 「…………。では、このような雪山に、何故そのような果物があるのですか?」 「それは後で分かることよ」 女は淡々と答えた。全くの無表情で。そして逆に問い返した。 「私の問いにも答えて欲しいわ、アーノルドさん。このような雪山に何をしに来たのかしら?」 「私はこの山に死にに来た」 アーノルドは即座に答えた。全きの真っ直ぐな瞳で、その女を見ながら。 すると、無表情だった女は笑った。とても楽しそうに可愛らしく笑った。 「おかしな人ね! そんなことを言う人を始めて見たわ。では、私がしたことは余計なことだったのね」 「いや、感謝している。まだ死ぬべきかわからなかったからな」 アーノルドは自分が支離滅裂なことを言っているのはわかっていた。しかし、そんなことはどうでも良かったのだ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加