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それはアーノルドの初めての恋だった。
アーノルドはその女を一目見ただけで惚れてしまったのだ。
アーノルドの目に映るその女は神秘的なベールを身に纏って(まとって)いた。
「本当の目的は言わずとも分かるわ。この山にいるという魔女を殺しにきたのでしょう?」
その女はアーノルドに問いかけた。
「ああ、そうだとも。君は何でも知っているのだね。そんなことより何か食べるものは無いか?」
アーノルドは何時間もの間、飲まず食わずでこの雪山を彷徨っていた。空腹であるのは当然であった。
女は手に持ったバスケットをアーノルドに渡した。
そして、微笑んだ。
「この果物はあなたの為に用意したものなのよ。ここに果物がある理由が分かったでしょ?」
「食べる為にここにある、ということか?」
女は微笑んだまま頷いた。
その様子を見て、アーノルドは何も疑わずにりんごを取り出し、食べた。
女がほくそ笑んでいる様子など、全く気づいていなかった。
直後、アーノルドは睡魔に襲われた。そして、そのまま眠ってしまった。
そう、女はアーノルドが探していた魔女だったのだ。
***
「馬鹿な男ね……。何の疑いもなく得体も知れない女から食べ物を貰って食べるなんて……。疑わない方が不思議だわ」
ソラリスは吐き捨てるように言った。話の様子から、女が魔女であることに感づいていたらしい。
「アーノルドは誠実過ぎたんじゃないかな? 一目惚れしてしまった相手で且つ、命の恩人である彼女を信じていたのかも」
シルビアは頬に人差し指を当てながら言った。彼女が考え事をするときの癖だ。
「さぁ、ここからが面白いところですよ? しっかり聞いて下さいね」
2人が段々と話にのめり込んでいることが嬉しいのか、魔女は楽しそうに話を続けた。
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