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言葉は耳に届けども間近に迫った赤に射すくめられ少年は動けないでいたが
しかし次に投げかけられた言葉に細い手は無意識のうちに降りあげられ、降り下ろされていた。
「あれほどの陵辱に毎夜甘んじておきながら、まだ何か怖いものがあるのか」
ぱし、と乾いた音が鳴る。
その音をもって初めて少年は己の行動を自覚した。
目の前の頬が薄く朱を帯び、冷たい眼差しが少年を射る。
そのとき確かに少年を埋め尽くしていたのは得体の知れ無い男への恐怖であったが、それを凌駕する怒りと羞恥によって
震える唇からは知らずと怒号が放たれていた。
「誰がっ、好き好んで毎晩抱かれたりなんか…!」
上気した頬にこぼれ落ちる水滴は恐怖からのものではない。
次から次へ流れ出る絶望と虚無はしかし冷たい布団に染み込んですぐに消えた。
決して甘んじてここに居るのではない。
常に錠のかかるこの部屋から逃げ出す術はなく、
最初で最後なんとか部屋の外へ抜け出した折りには即座に目付けの僧に捕らえられ
処罰と呼ぶには余りに非人道な折檻を受けた覚えがある。
出ないのではなく、出られないのだ。
それを「甘んじている」とは…少年にとって堪えがたい屈辱だった。
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