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「…誰なんだろう……」
いつより部屋に居て、如何にして出て行ったのか。
答える声はなく、己に見当のつく筈も無い。
解のない問いは虚しく朝の光に消えたがその時ふと目の端に見慣れない色を認め
何を視るでもなく遊ばせていた視線を一つところに定めた。
――黒い、羽根
視れば床に一点ゆらりと、黒い羽根。
何か不思議と引き寄せられるようにすいとそれを取り上げると
掌ほどの長さのそれはどうやら獣の翼から抜け落ちたものの様であった。
――どこから入ったのか…
長くここに居るがこの様な羽根はついぞ目にしたことが無く
しげしげと眺め明かしているところへ部屋の錠前の外される音が響き、
その音になぜか手にした羽根を枕に忍ばせとっさに空寝を決め込んだ。
目蓋を無理矢理下ろした刹那、扉が放たれ人の踏み込む気配を感じる。
すぐさま気配の主は朝食の膳を運んできた僧であるらしいと当たりがついた。
足音に呼応しかたかたと音を立てる椀から
常のごとく空腹を誘う芳香が漂ってくる。
もっとも、常のごとく食欲など沸いてくるはずもなかったが。
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