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「何だぁこれは」 くだらない、と言わんばかりに振り払おうと男は二、三度手を振り下ろすのだが 意に反して黒羽根は根を張ったようにそこから離れない。 わずか残った力で着衣を引き寄せながら少年はその様をただ見ているしかなかったが 徐々に男の様子が変わっていくのに気がついた。 黒羽根の食い込んだ辺りが薄青く変色し始めていた。 そうと気付かぬ男は幾度も腕を振り下ろすがしかし一向に抜ける気配はなく その内に肘の辺りまでの肉が薄気味悪く変色を遂げていった。 「あ、熱い! 熱いぃぃぃっ!!」 黒羽根を拠点とした肉の変色は相当な熱を伴うらしく 次第に黒ずんでゆく腕を掻き抱きながら男は苦痛を訴える。 しかしてその声も虚しく男の腕はついに肩口まで禍々しい色で埋め尽くされてしまった。 目の前で大声を上げのたうち回る僧と黒ずんだ腕… 少年はただ身をすくませてその光景に目をやる事しかできない。 クケ―――― ただただ目を見張るばかりの少年の耳に、ふいに獣の鳴声が流れ込む。 遠くから甲高く響いたその音は鳥のものの様であり、ともすれば人のものの様でもあった。
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