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――朝の、音がする。 格子窓から射し込む光にまだ開かない目をしかめ、 しかし起きあがる気力もなくそのまま四肢を反転させ貌にかかる朝日の直射を遮った。 ――いつ…終わっただろう。 青年と呼ぶにはまだ随分と幼さの残る貌は、 昨夜の名残でその目元を赤く腫らしたままでいた。 己がいつ意識を手放したのだったか、記憶を手繰り寄せてみるも無駄な努力と途中で悟り 少年は無気力に目蓋を上げた。 目の前に、朝食の膳。 いつの間にか置かれていたそれからは空腹を誘う芳醇な香りが漂っていたが、 常のごとく少年は膳から顔を背けると再び目蓋を下ろし己と世界を切り離した。 この膳を運んできた僧は、己の姿を見て何を思ったろうか。 明け方まで幾人もに陵辱し尽くされ、 そのまま無抵抗に手足を投げ出し昏々と眠っているこの姿を…。 考えたくないことを無意識下に考えてしまうのは、 広い部屋の中ただ一人、夜までの膨大な時間以外を何も与えられていないことに寄るに違いない。 食事と少数の読み物が定期的に給され、 生きていく上での安定を揺るぎなく約束されたこの部屋は しかし牢獄以外の何物でもなかった。 ――外の土を踏んだのはどれほど前のことだったっけ… 思考以外許されない部屋の中で、少年はかすかに自問する。 ここへ来たのはいつだったか、もう随分遠いことであるように感じる。 戦乱で親族は絶え、明日の生死も分からない中にあって、 寺院からの召し抱えの申し出は正に地獄に仏と言うより他なかった。 この場所こそが地獄であると、気付くのにそう時間はかからなかったが。
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