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カチリ 錠の開く音に知らずとすくむ肩を押さえつけそろりと扉へ首をもたげると、 随分と年を経た高僧が歩みをこちらへ向けているのが見えた。 「…道元(どうげん)様」 扉を背にする高僧の姿を認め、少年は安堵の表情を浮かべるもはたと己の姿に気づき 慌てて着物の前をかき合わせると、来訪者に向かってその身を起こした。 「お早う御座います」 「お早う華菖(かしょう)。…今日も箸をつけないのかね」 穏やかながらも咎めの音を含む言葉に、少年は少し貌を曇す。 「…食欲が…ありませんので」 視線を外す少年にふと声音を和らげ、 「多少でも口に入れなさい。お前が弱ると私も辛い」 高僧の言葉に再び口元をほころばせ、少年は有り難う御座いますと指をついた。 少年を寺院に招いたのは彼の人である。 ぼろを纏い泥にまみれて絶望を一身に噛み締めていた少年を、掬い上げ生かし続けたのはこの高僧である。 「私の寺院においでなさい」 「お前にしか出来ない仕事があるのだ」 「厭な想いをさせて済まない…どうか、判っておくれ」 部屋に初めて男達が押し入ってきた翌日、泣き腫らした少年の元を訪れた高僧は 泪混じりに謝罪と懇願の言葉を投げた。
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