第一章‐希望、絶望

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「まあ、いいことはあったわね」    先の質問に答える気になったらしい。   「いいことですか?」   「そう、いいこと」   「どんなことです?」   「告白されたの」    内心で「ああ」とつぶやく。  そして部長は、パイプ椅子にもたれながらもう何回言ったか分からない言葉を口にする。   「けど、振っちゃったわ」   「またですか」   「うん。だってわたし、そういうのまだよく分からないし」    実のところ、部長はかなりモテる。  しかし彼女は、今まで告白してきた男子全員を泣かせているんだ。それでも挑戦してきた今日の男子の勇気に、乾杯。   「でもあれですね。そんなにモテる部長の近くにいられる僕って、何気に幸せ者なんですね」   「ふふ、見つかったら殺されるわよ」   「や、もう死んでますから」    その前に、僕は普通の人には見えませんから。    そうして適当に話していると、再び扉が開いた。   「こんにちはー」    入ってきたのは銀髪の少女だった。   「おっす、深恋」   「こんにちは、深恋」    彼女は稲垣深恋(いながきみれん)。ここオカルト研究部の副部長で、僕と同い年。つまり部長の後輩だ。  深恋の銀髪は右が短くて左が長いアシンメトリー。左にだけ黄色いリボンをつけている。    そして彼女、なんと見習い巫女らしい。    見習いとはいえ、除霊などを専門とする種の巫女らしく、最初はかなり近寄り難い存在だったのを覚えている。    深恋はしばらく教室内を見渡して、首を傾げた。   「部長さんと悠くんだけ?」    なぜか深恋は僕に向かって聞いてきたので、答えることにする。  ああ、ちなみに深恋も僕が見えている。このオカルト研では、一名を除いた他三人は霊視能力所持者だ。   「そうだけど?」    どうしたんだ、という意味を孕んだそれを、深恋はちゃんと理解してくれた。   「じゃあやっぱりアレ、舞ちゃんなのかな……」    深恋の言葉に、僕と部長は思わず嘆息する。   「またやったのか、あいつ」    呆れてものも言えない部長に代わって、僕が吐き捨てる。   「で、今度はどこに連れて行かれたの?」    額に手をやりながらパイプ椅子から立ち上がり、部長が深恋に訊く。   「えっと、職員室だと思います……」   「そう、ありがとう。迎えに行ってくるわ」    そう言い残し、部長は教室を出て行った。
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