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「……こんにちは、稲垣さん」
「あ、こんにちは、有珠ちゃん」
入ってきたのは青い髪をボブカットにした少女だった。
「今、一人ですか?」
「ううん。悠くんがいるよ」
「ああ。……なるほど」
深恋の座り方が一人でいるにしては不自然だったからだろう。有珠は僕がいることを聞くと納得した様子だった。
彼女は篠原有珠(しのはらありす)。オカルト研で唯一僕が見えないやつで、深恋のクラスメイト。
無類の読書家で、小説以外にも漫画や雑誌の類もよく読むらしい。今持っているのは文庫本だ。
そして、今日のように有珠が深恋と一緒にここに来なかったときの理由は、掃除当番だったときともう一つある。
それが有珠の最大の特徴で、最大の弱点だ。
彼女、読書に集中すると周りが見えなくなる。
それどころか、呼んでも聞こえないし、騒がしくたって関係ない。地震が起きても読み続けるんじゃないかってぐらいの、筋金入りだ。それで、部活の時間になっていることに気付かないときさえある。
「なあ、深恋。有珠、なんて本を読んでるんだ?」
有珠には僕の声が届かないため、深恋に伝言を頼む。
「有珠ちゃん、今日はなんていう本を読んでるの?」
「知りたいですか?」
「えと、私も興味あるけど、悠くんが知りたいんだって」
「そうですか。……いいでしょう、お見せします」
そう言って差し出してきた本のタイトルは、『正しい除霊のしかた』だった。……コノヤロウ。
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