第一章‐希望、絶望

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「……こんにちは、稲垣さん」   「あ、こんにちは、有珠ちゃん」    入ってきたのは青い髪をボブカットにした少女だった。   「今、一人ですか?」   「ううん。悠くんがいるよ」   「ああ。……なるほど」    深恋の座り方が一人でいるにしては不自然だったからだろう。有珠は僕がいることを聞くと納得した様子だった。    彼女は篠原有珠(しのはらありす)。オカルト研で唯一僕が見えないやつで、深恋のクラスメイト。  無類の読書家で、小説以外にも漫画や雑誌の類もよく読むらしい。今持っているのは文庫本だ。    そして、今日のように有珠が深恋と一緒にここに来なかったときの理由は、掃除当番だったときともう一つある。  それが有珠の最大の特徴で、最大の弱点だ。    彼女、読書に集中すると周りが見えなくなる。  それどころか、呼んでも聞こえないし、騒がしくたって関係ない。地震が起きても読み続けるんじゃないかってぐらいの、筋金入りだ。それで、部活の時間になっていることに気付かないときさえある。   「なあ、深恋。有珠、なんて本を読んでるんだ?」    有珠には僕の声が届かないため、深恋に伝言を頼む。   「有珠ちゃん、今日はなんていう本を読んでるの?」   「知りたいですか?」   「えと、私も興味あるけど、悠くんが知りたいんだって」   「そうですか。……いいでしょう、お見せします」    そう言って差し出してきた本のタイトルは、『正しい除霊のしかた』だった。……コノヤロウ。
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