第一章‐希望、絶望

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「あ、有珠ちゃん!?」   「私にも頑張ればできるのでは、と思いまして」   「無理だよ! 巫女の私でもまだ無理なんだから!」   「見習いだからでしょう」   「そ、そもそも有珠ちゃんには見えないじゃない!」   「見えないから無理、という固定観念を持っている時点で、成長の兆しは見えないでしょうね」   「うっ……でも、でもでもっ、友達の悠くんを除霊しようとするのは酷いと思うよ!?」    深恋が自棄になって叫ぶ。それを訊いた有珠は、しかしけろりと表情一つ変えなかった。   「私、そんなこと言いましたか?」   「ふぇ?」   「これはただ、『私でも頑張れば除霊という儀式を行うことが可能なのではと思った』というだけのことですが」   「……はぅ」   「まさか稲垣さん、八雲さんを除霊しようとでもお考えに? それはあまり褒められた思考ではありませんね」   「うぅぅ……有珠ちゃんのいじわるぅ……」   「早とちりするあなたが悪いのです」    ……女って恐い。いや、有珠が恐いっていうだけだろうか。    こいつ、無表情のまま正論で攻め立てるから、深恋みたいなやつが勝てるわけがないんだ。それにしても、今回の手はなかなかに酷い。    あんな本見せられたら、深恋のように考えてしまうのも無理はないだろう。僕もそう思ったし。    なにより重要なのは、全て計算どおりだったことだ。    実は僕も本は結構好きで、よく深恋を介して有珠に読んでる本のタイトルを聞くことがある。それはだいたい、文庫本からハードカバーに変わったり、ハードカバーから漫画に変わったりする、変わり目だ。    そして、昨日有珠が読んでいたのは、ハードカバー。つまり、今日は変わり目だった。    そこで僕は彼女にタイトルを聞く。そこから先は反応の分かりやすい深恋のパターンを読み切ったというわけだ。    恐ろしきかな、篠原有珠……。
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