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「さて」 早百合はロッカールームで着替えを始めた。 その間も、件のメールが頭から離れない。 あんな気味の悪いメールが、なぜ香奈々の携帯電話に? あのメールは悪戯なのか、まさかとは思うが、本物なのか。 もし悪戯ならば、誰が、何故香奈々に? もし本物だとしても、何故香奈々に? いやいや、それ以前にどうやってアドレスを非通知出来たのか。 そんな事が出来たと言うことはやはり… と、そこまで考えているうちに着替えが終わった。 さあ帰ろう、と荷物に手を伸ばす。 もっとも、荷物と言っても携帯電話しか無いのだが。 「…あ」 携帯電話に手が触れた瞬間に思い出した。 「メール…」 そう。 昨日、自分にもメールが届いていたのだ。 携帯電話なんて、かかってくるのもメールがくるのも母のみ、しかもその母も滅多にその両者をしないので殆ど使わない。 そのせいで、完全に忘れていたのだ。 早百合は携帯電話を開く。 そして、メールボックスを確認した。 「…」 しかし、メールを開封せずにパチンと携帯電話を閉じた。 「…ははっ」 そして、小さく笑った。 「香奈々…やっぱり、私も行かなきゃだよ…」 と、独りぽつりと言う。 昨日は母からのメールかしか確認しなかったため、気づかなかった。 否、母からしかメールがこないので忘れていた。 『クソババァ』と表示されなかったその場所。 そこに『クソババァ』と表示されなければ、本来アドレスが表示されるはずだった。 本来アドレスが表示されるはずだった場所。 そこには、何も表示されていなかった。 .
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