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「…」
全員が何も言葉を発せず、そして動けなかった。
「…あ、ありがとう…ございます…」
最初に声を出したのは左様だった。
「兄貴…!」
次に声を出し、最初に動き出したのは右様だった。
右様は左様に駆け寄り、助け起こす。
「ありがとうな、オッサン!」
自分の兄の恩人に対してオッサン呼ばわりだった。
まあ、右様から見ればそう呼んでもおかしくない年ではあるのだろうが。
「…」
しかし、厳はどういたしましてとも言わず、元々ブランコがあった場所を見ていた。
そこにはあと二つブランコがぶら下がっていた。
「…オッサン?」
呼びかける右様。
「…」
しかし、厳は尚も二つのブランコを注視している。
その時。
キィ…と、小さな音を、早百合達の所までは届かないほど小さな音を立て、残りの二つのブランコが小さく揺れた。
「…逃げろ!」
ここで初めて厳が声を発した。
「え…?」
突然の言葉の意味を理解出来ない右様と左様。
しかし、次の瞬間にその意味を理解した。
ギィ…ギィ…ギィ…ギィ…
と。
再びあの錆びた鉄同士が擦れる音が響いたのだ。
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