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「遅い」 リアルに死にそうな顔で家に帰り着いた矢先、全くいたわりの感情のないそんな声が早百合に飛んできた。 「今日は午前中だけのはずだよね?」 「…」 「なにモタモタしてたのよ、ノロマ」 「…」 「…ちっ、だんまりか、バカ娘」 香奈々と別れ(香奈々は同じアパートの二つ隣の部屋に住んでいる)、家に入った途端に寝転んでテレビを見たまま冷たい言葉を次々に放ってくるこの女性。 何を隠そう、というか、隠そうとしてももう解るだろうが、早百合の母だ。 「サッサとバイト行きな、学校が午前中だけなんだからたっぷり稼ぎなよ?」 「…」 「…何、なんか文句あるの?」 何も答えない早百合に対し、ようやく視線を向けて言う母。 「その年まで誰が稼いで育ててやったと思ってんだ。働ける年になったんだから今度はあんたが私を養いな。それが恩返しってもんだろ?」 「…」 「何黙ってんのよ。言いたいことがあるなら言いなさいよ、クソ娘」 「…うっせぇ、クソババァ」 「あんだって!?」 聞こえないように小声で言ったつもりだったが、しっかり聞こえてしまったらしい。 .
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