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「帰蝶」
光秀様が部屋に入ってくると、私が大好きな笑顔で私の名を呼ぶ。私もそれに応えようと、満面の笑みで愛しい彼の名を口にする。
「光秀様」
光秀様は部屋に誰もいないかと、部屋を見渡すと、私の側に来て、ギュッと私を抱き締めた。
「この前、会いに来た時に柚木が、帰蝶は風邪を引いている、いって会わせてもらえなくて……すっごく会いたかった……!」
抱き締めている腕の力が更に強くなる。
「私もです」
そう言って、私は光秀様の腰に手を回した。
光秀様は一瞬、我に反ったのか「……いきなりすぎたかな?」と少し身体をずらして、私に目を合わせてから言った。
「光秀様が強引な方なのは前から知っていますから」
そう言うと、二人して声を出し、笑った。
「少し、痩せたね」
「痩せて、綺麗になりました?」
「……前から綺麗だよ。それに、今日は一段と美しい」
光秀様は普通の殿方がそうそう言わないことを平気で言う。
慣れたとはいえ、やはり、そうずばり言われたら恥ずかしい。
「本当に気分が良さそうだね。血色も良い」
「心配かけてごめんなさい」
「謝ることじゃない。帰蝶が元気ならそれで私も元気でいられるよ」
「光秀様の元気の素は私ですの?それじゃあ私がいなくなったら光秀様はどうなさるの?」
「帰蝶がいなくなったら……?考えたくもないことだなあ。」
「もし、万が一ですよ」
すると、笑っていた顔が消え、真剣な顔で「なにがあっても側に行く」と言った。
「側に……?」
「いなくなったら探す。帰蝶が見つかるまで。どこにいようと帰蝶を探して側にいる」
「この世にいなくても?」
「この世にいないなら、あの世まで探しに行くよ」
私はクスクスと笑ってしまった。
「あっ、本気にしていないだろう?本気だから」
「わかりましたよ」
本気にしていない、と光秀様はそれについて熱弁し始めた。
光秀様、私、信じているに決まってるじゃないですか。でも珍しく、熱弁する光秀様をもっと見たくて……意地悪してしまいました。
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