‐十四‐

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「帰蝶」  光秀様が部屋に入ってくると、私が大好きな笑顔で私の名を呼ぶ。私もそれに応えようと、満面の笑みで愛しい彼の名を口にする。 「光秀様」  光秀様は部屋に誰もいないかと、部屋を見渡すと、私の側に来て、ギュッと私を抱き締めた。 「この前、会いに来た時に柚木が、帰蝶は風邪を引いている、いって会わせてもらえなくて……すっごく会いたかった……!」  抱き締めている腕の力が更に強くなる。 「私もです」  そう言って、私は光秀様の腰に手を回した。  光秀様は一瞬、我に反ったのか「……いきなりすぎたかな?」と少し身体をずらして、私に目を合わせてから言った。 「光秀様が強引な方なのは前から知っていますから」  そう言うと、二人して声を出し、笑った。 「少し、痩せたね」 「痩せて、綺麗になりました?」 「……前から綺麗だよ。それに、今日は一段と美しい」  光秀様は普通の殿方がそうそう言わないことを平気で言う。  慣れたとはいえ、やはり、そうずばり言われたら恥ずかしい。 「本当に気分が良さそうだね。血色も良い」 「心配かけてごめんなさい」 「謝ることじゃない。帰蝶が元気ならそれで私も元気でいられるよ」 「光秀様の元気の素は私ですの?それじゃあ私がいなくなったら光秀様はどうなさるの?」 「帰蝶がいなくなったら……?考えたくもないことだなあ。」 「もし、万が一ですよ」  すると、笑っていた顔が消え、真剣な顔で「なにがあっても側に行く」と言った。 「側に……?」 「いなくなったら探す。帰蝶が見つかるまで。どこにいようと帰蝶を探して側にいる」 「この世にいなくても?」 「この世にいないなら、あの世まで探しに行くよ」  私はクスクスと笑ってしまった。 「あっ、本気にしていないだろう?本気だから」 「わかりましたよ」  本気にしていない、と光秀様はそれについて熱弁し始めた。  光秀様、私、信じているに決まってるじゃないですか。でも珍しく、熱弁する光秀様をもっと見たくて……意地悪してしまいました。 .
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