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「ねえ、おねーさん!少しだけ!少しだけ話聞いてくれたら、すごいお金持ちになれるって!」
私は学校に行く事にした。
診療所で一ノ瀬先生の手伝いをしても良かったのだけれど…
……先月……
「んー」
「…毎日ヒマそうねあんた」
「そんな事ないですよ」
で…もう一度ノビをしてみる。
「んー」
「……あんたももうガキじゃないんだから学校くらい行きなさいよ!全く図体ばっかりデカくなって…」
「図体は関係ないんじゃないですか?それにちゃんと家賃払ってるじゃん!」
「そんな問題じゃないの!一日中そのデカいの見てるとイラつくのよっ!これ見よがしにいっつもそんな服着て!」
ぷに
「ちょ、ちょっと!人の胸ボールペンで突くのやめてくれますっ?!」
ぷにぷに
「なんなのよコレ…これだけあれば何人の飢餓で苦しむ子供達が…」
「救えませんっ!」
「成長期って怖いわ。
いや【成長】ってより【変身】ね。さなぎだったカワイイあんたが懐かしい」
「前から『エロガキ』とか『クソガキ』とか散々言ってたじゃない」
もうこの診療所に来て3年が過ぎようとしていた。
それなりに一ノ瀬先生とも上手くやっている。
霧さんや雫さんもよく顔を出してくれていた。
でもあの人はいなかった。
人騒がせな…この世で一番会いたい人。
自分の死期をずっと見詰めて…それでもいつも他人の為に血だらけになっていた。
そして二年前に死んでしまった。
忘れた事など一度もなく、忘れようとした事は数え切れない。
あれが私の初恋だったのだ。
不思議と…一番落ち込むと思っていた天野の人たちは元気だった。
霧ちゃんは高校3年生になり、雫さんは大学に通っている。
日常と、あの人の事を上手に消化出来ずに…私だけが取り残された気分がしていた。
確かに…
『図体ばっかり大きくなって』
という、一ノ瀬先生の評価は当たっていた。
私は…変わり損ねていた。
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