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「なーおえ~!で~きたーあ!」
ようやくレポートを全て完成させて、高耶は任務完了の宣言も高らかに、カンヅメしていた自室を出てリビングのソファーに身を投げた。気持ちよく晴れ上がった空をサッシ越しに眺めながら大きく伸びをしたところへ、キッチンからマグカップを持った直江が歩み寄る。
「お疲れ様でしたね。はい、どうぞ」
「あー!さんきゅ~」
隣に座った直江に答えて、ココアの入ったカップを受け取ると、
「あー、終わった~。これで今学期も無事終了だよ~」
テストも済んだし、と安堵のため息をつき、
「やっぱり、こうやってちゃんと課題やって大学生してられるのも、全部おまえの協力あってこそだよな。いつも言ってるけどさ、何もかんもみんなおまえのおかげだよ。ほんとに、いつもありがとな、直江」
「いいえ。どういたしまして」
肩に頭を載せて笑った高耶に、直江も優しく微笑む。毎学期の終わりにこうして自分への感謝を告げる高耶のその台詞は、もうすっかり耳にお馴染みだった。
けれど毎度のことではありながら、そんな素直な言葉はやはり他意がない故に罪作りであり、その上、場合が場合である。高耶が幾つものレポートと試験を抱えて自室にこもるようになってからというもの、直江はもう二週間も禁欲が続いていた。夕食が済むと、高耶はすぐに課題に取りかかってしまうために、こうして身体がふれるのも久しぶりだったのだ。高耶のためにと、たったひとつのキスさえも自粛していた直江にとって、腕の中に安心した様子で預けられる恋人の無防備な身体は、いささか忍耐に難かった。
直江はのんびりした様子でカップを口に運ぶ高耶を見つめると、その肩を抱き寄せた。そして、
「お礼を言われるほどのことではありませんよ。最初に一緒に暮らし始める時、あなたが心のままにお勉強できるように、どんなことでも手助けすると言ったのは私ですからね。それに…」
言葉を切りながら、直江は自分のカップをテーブルに置き、高耶のカップも手から取り上げて並べて置く。そして、まだ残っている中身に怪訝そうな顔をする高耶に、唇の端をついと持ち上げにっこり笑んだ。
「それにね、協力の見返りはちゃんと、いただいてますから」
「え?」
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