『涙音』

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泣きながら耳元で詫びる幸村の声が、胸を突き刺す。 ―――この人は、何故こんなにも私の為に泣けるの? ―――私は、兄上を殺そうとしていたのに………。 ―――何故…………何故………。 「―――すまぬ幸里。某は、元親殿に幸里を自由にしてやれと言われておったと言うのに……結局は何も出来なかっ………すまぬ。」 ――元…親が………兄上に……? 「……父上に幸里が死んだと聞かされた時も、何か変だと感じながら、悲しさに呑まれ何もする事が出来なかった。…早く動いてさえいれば、こんな事には………。」 ――元親が…兄上に頼んだ……。……兄上も……苦しんでた……? 「………謝らないで下さい……。兄上は…もぅ充分、苦しんだのでしょう?……兄上はあの頃と……何も変わってない。……残酷な程優しくて温かい……。後は、私に預けて下さい。兄上の苦しみを、後悔を……私が全て持って行きますから………。」 幸里は今まで幸村を恨んでいたのをひどく後悔し、ぎこちなく笑みを送ると立ち上がり襖を開けた。 .
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