第1章

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    温かい気温に晴れ渡った空、仕事から帰宅中の重い足取りも軽くなる良い天気。   「スティーーーー!!!」 「!」 突然聞こえてきた大きな声。顔をそちらに向ければ、赤い髪をした少女が走ってくるのが見えて どう見ても見覚えのあるその姿に驚いてあたしは足を止めた。 「リウル!?あんた稽古は?」 「逃げてきちゃった!だってつまらないんだもの。花の心なんて理解できるわけないじゃない!」 ドレスの裾をつかみながら、彼女はそう言って、頬を膨らませている。 綺麗なドレスを身にまとった目の前の少女、リウル・カルロント。 これでも彼女はハートのクイーンの血筋をもつ生粋の貴族様で、本来ならば誰がどう考えてもこんな辺鄙な森の傍に易々と遊びに来ていい身分では無い。 そもそも彼女は普段、ぎっしりと詰まったあらゆる稽古に追われている筈だ。 しかし、彼女がここに訪れるのは今月7回目。 さらに彼女の場合、その全てが稽古をすっぽかして、お付きの召使たちから逃走してやってくるわけで。 それすなわち、その度彼女の屋敷は大騒ぎになっているということだ。 「まったく・・・こんなところ貴族様の来るところじゃないのに」 彼女の付き人たちの苦労を思い浮かべながら、明るい笑顔を向けてくる彼女の頭を撫でて軽く溜息をついた。 「同感だね、さっさと帰ったら?」 「!」    
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