第一約 二人の旅人

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フェイルが座っているカウンター席からは厨房の様子が良く見えた。 厨房には先程の男ともう一人、優しそうな雰囲気の女性がいた。 周りを見渡しても他に従業員はいなく、どうやらこの店はこの二人だけで経営しているようだ。 しかし、二人だけ、と従業員が少ない割にこの食堂は大きく、繁盛もしているため、二人は接客や調理に追われ、厨房や食堂をせわしなく行き来している。 だが、二人は忙しく体を動かしながらも、その顔には不満や疲れ等は無く、生きがいや笑顔に溢れていた。 それが伝わっているのか、店にいるほとんどの人が笑い、談笑し、食事をとり、ミセリア食堂は笑顔の溢れる店となっていた。 「ねぇ、これからどうするの?」 食堂の場景を楽しんでいたフェイルを、シェリスの全体的に月のような雰囲気の中に映える、紅の双眸が見つめる。 「俺は……まぁ何日かこの町に留まってみて、何も手掛かりになりそうなのがなかったら、また適当に近くの町にでも向かおうかなって思ってるけど?」 フェイルがシェリスに視線を合わせ、答える。 二人の瞳は、燃え盛る紅蓮の紅と、何処までも澄み渡る藍色で、どこか対照的に見えた。
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