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「優先生。」
歩くのが速い。
声も聞こえないらしく、止まらない。
桜は先ほどより大きな声で呼ぶと、やっと振り返った。
「どうした?」
「あの……。」
言葉を用意していなかった。
少し考えていると、「次の授業あるから行くぞ。」とまた向きを変えた。
「古典教えてください。」
「俺が?」
またくるっとこっちに向きを変えた。
授業中や、普段話す時とは違うクールな顔。
そして悩む顔。
少し怖くなる。
「やっぱりいい。」
断られる感じがしたので、次の優の言葉を待つより先に桜が言葉を言う。
そして、自分の言葉にも恥ずかしくなりその場を離れようとした時に優の言葉が桜を止めた。
「今日は先生いないし、宿題とかあるなら見てもいいよ。」
「本当に?」
塞ぎ込んだ顔が笑顔になる。
その代わりように優が吹き出して笑う。
「仕方がないだろ。」
「約束ですよ。」
「約束。」
桜は小指を優に差し出す。
「はいはい。」と笑って、優も小指を絡める。
指切りした後に、予鈴が為る。
優は「やばい。」と小さく言って、駆け足で階段を降りて行った。
桜は先ほどまで絡めていた小指を見つめて、微笑む。
一人その場所にいると、後ろから百合が背中を叩く。
「次、移動だよ。はい、道具。」
「ありがとう。」
百合から受け取り、ビデオ鑑賞に鑑賞ルームに一緒に移動する。
珍しく黙る百合を不思議に感じながらも、二人で向かう。
「桜の好きな人って、まさか佐倉先生?」
鑑賞ルームの手前で、百合は躊躇いがちに笑いながら言う。
「えっ……、違うよ。」
「……そうだよね?だって相手は教師だもんね?」
百合は確信を隠したように何回も聞く。
それが解る桜は何にも言えずにいた。
「相手は教師だよ。若いって言ったって、教師なんだよ?」
「……。」
「ねぇってば。」
現実に引き戻そうとしているのか。
力強く引っ張る百合の手を払いのけ、力強く言う。
「私、本気だよ。」
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