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放課後。
一人、教室で優を待っていた。
百合とはお昼以来口を聞いていない。
百合の言葉がずっと頭を巡る。
――だって好きなんだもん。
カバンに顔を伏せていると、ドアがガラリと開き人の足音が近づいてくる。
「寝てるの……か?まったく。」
優のため息と笑い声が上から降ってきた。
「起きろ。こら。」
今度は冷めた声が降ってきた。
桜はビクッと顔をあげ、「おはようございます。」と言う。
「勉強しないなら家に帰れ。」
「すみません。」
怒っている。
そう感じる。
「……でも、朝から勉強頑張ってれば眠くもなるか。」
でも、優は怒ってはいなかった。
優しく笑って、前の席に座る。
何かがいつもの優とは違う。
宿題を一緒解いている間もずっと桜は気になっていた。
時々、「ちゃんと聞いてるか?」と優に何回か言われた。
そして、ようやく宿題が終わったのが19時。
辺りも暗くなり、校庭に響いていた部活動の声も静かになっていた。
「先生、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
「すみません。」
「教師の仕事だよ。」と眼鏡を外す優を見て、やっと解った。
「先生、眼鏡してる。」
「ずっとしてたけど。」
「今日の授業中してなかったよ。」
「あぁ、いつもしてるわけじゃないよ。目はそんなに悪いわけじゃないから、たまに。」
「だから、最初なんか違う感じがしたんだ。納得。」
「それがずっと気になってたの?」
「うん。」
「ちゃんと集中して聞いてなかったのか、お前は。」
そう頭を小突く。
「ごめんなさい。」と笑う。
「眼鏡してるの新鮮。」
「どこがだよ。」
「カッコイイよ。」
意地悪に笑って言い、優の顔を食い入るように桜は見つめていた。
優は「そんなに見るな。」と桜の肩を押さえる。
少し赤くなる優の顔に嬉しさと可愛らしさを感じる。
「可愛いですね。」と笑って言うと、ますます顔が赤くなる。
それを笑顔で見ていると、優は立ち上がって勢いよく話し出した。
「終わったなら帰りなさい。もう暗いんだから。」
「逃げたな。意外な一面発見。」
筆記用具をカバンにしまっていると、不意討ちに呼ばれた。
「桜。」
「えっ?」
今日初めて呼ばれた名字、そしたら今初めて名前を呼ばれた。
今度はこっちが赤くなる。
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