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「…の木が綺麗だなぁ。」
「はっ……?」
「だから、桜の木だよ。」
優は校庭の桜の木を見ていた。
桜の顔はますます赤くなる。
「夜桜って見る機会あんまりないだろ。見とけよ、沢山。」
振り返る優に、赤くなった顔を見られたくないために下を向く。
「桜は床じゃなくて、外だよ。」
「いや、私見ないです。」
「桜を美しいと思うのも古典をやるには必要だぞ。」
桜の視線に、優の靴が映る。
「どうした?」と肩を触る優の手にビクッとして、顔を上げてしまった。
「どうした?」
驚いた声と同時に、桜の目を優のYシャツの裾が隠す。
どうして目なんだろうと桜も不思議に思った。
「何で泣いてるんだよ。」
「えっ。」
視界が裾で真っ暗な桜には確認しようがない。
しばらくして離したあと、頬に感じた冷たさで涙を実感した。
「私、泣いてました……?」
「自覚なし?」
「うん。」
そう認めた後に、今度ははっきり目から涙がこぼれていくのが解った。
「ちょっと待て。どうした。」
慌てる優の目の前でどうしようもない桜。
「大丈夫です。」
「泣き止んでから言え、そういうのは。」
「泣いてるの見ないで。嫌だ。」
「泣いてる生徒見過ごせないだろ。」
生徒。
この言葉が涙をまた強くする。
この涙の理由。
――それは優への気持ちの確かと、気持ちの行き場のなさの確かなことなんだ。
なんとなく。
桜はそんな風に思った。
「ちょっと背中貸してください。」
「背中?ど、どうぞ。」
寄りかかりたくなった。
支えてもらいたくなった。
大きな優の背中に、桜は甘えるように泣き出した。
――やっぱり好きなんだよ。
そうずっと心の中で呟いた。
黙ったまま、優は背中だけを貸していた。
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