●春音

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「あの、ありがとうございました。」 「泣き止んだ?」 「はい。」 「そっか、ならよかった。」 背中。 きっと一生前から寄りかかることはできない。 そして。 一生、抱きしめてくれることもない。 生徒にとって教師はそう。 その背中に頑張って追いつくことしかできない。 それでも。 背中だけでも。 恋していたいと思った。 「すみません、急に泣いて。」 「いいけど。」 「鼻水はつけてませんから。」 「そんなのお構い無く。」 「じゃあ、本当はつけたよ。」 「嘘?」と笑う、優。 「嘘だよ。」と笑う、桜。 「なんかあったら言ってきなさい。」 「はい。」 優はそっと頭を撫でて笑う。 桜の気持ちには気付いていない。 もしかしたら。 頭の良い優は気付いているかもしれない。 それでもいい。 この関係でいい。 ただの"教師と生徒"ではなく。 仲の良い"教師と生徒"でいたいと思った。 生徒の中で、優の一番になりたいと思った。 「もうこんな時間だから、帰るよ。」 「はい。」 「日直、俺なんだからなぁ。サボってると思われるよ。」 「ごめんなさい。」 「まぁ、いいけど。他の先生まだいるのかな。」 二人で下まで降りると、職員室からはまだ明かりがもれている。 「他にも先生いたじゃん。」 「誰かな。じゃあな、気をつけて帰れよ。」 「さようなら。先生、ありがとう。」と下駄箱で笑って言って別れた。 「おう。」の一言と、手を振る優。 学校の外は先ほどとは対照的に真っ暗。 急に怖くなり、駆け足で駅まで向かった。  
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