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「あの、ありがとうございました。」
「泣き止んだ?」
「はい。」
「そっか、ならよかった。」
背中。
きっと一生前から寄りかかることはできない。
そして。
一生、抱きしめてくれることもない。
生徒にとって教師はそう。
その背中に頑張って追いつくことしかできない。
それでも。
背中だけでも。
恋していたいと思った。
「すみません、急に泣いて。」
「いいけど。」
「鼻水はつけてませんから。」
「そんなのお構い無く。」
「じゃあ、本当はつけたよ。」
「嘘?」と笑う、優。
「嘘だよ。」と笑う、桜。
「なんかあったら言ってきなさい。」
「はい。」
優はそっと頭を撫でて笑う。
桜の気持ちには気付いていない。
もしかしたら。
頭の良い優は気付いているかもしれない。
それでもいい。
この関係でいい。
ただの"教師と生徒"ではなく。
仲の良い"教師と生徒"でいたいと思った。
生徒の中で、優の一番になりたいと思った。
「もうこんな時間だから、帰るよ。」
「はい。」
「日直、俺なんだからなぁ。サボってると思われるよ。」
「ごめんなさい。」
「まぁ、いいけど。他の先生まだいるのかな。」
二人で下まで降りると、職員室からはまだ明かりがもれている。
「他にも先生いたじゃん。」
「誰かな。じゃあな、気をつけて帰れよ。」
「さようなら。先生、ありがとう。」と下駄箱で笑って言って別れた。
「おう。」の一言と、手を振る優。
学校の外は先ほどとは対照的に真っ暗。
急に怖くなり、駆け足で駅まで向かった。
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