●春音

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直接関わり合いはない二人の出会い。 今年の一月。 まだ二年生の頃、三年生を卒業前に祝う行事を末に控えていた。 その実行委員に立候補したのが桜と百合。 桜には好きな先輩がいた。 告白をする勇気がなかった。 その先輩、山下葵が桜の初恋の人。 高校に入るまで、恋をすることがなかった。 出せた勇気はアドレスを聞いただけ。 それでも葵は優しく応えてくれ、ずっと支えてきてくれた。 でも、好きになってはくれなかった。 一度だけ言われた。 「桜は妹みたいだよ。」 この言葉が勇気を出すことへのとまどいにもなった。 そんな関係が続き、ついに葵は卒業をする。 この卒業を機に、桜は葵への気持ちを終わりにしようと決意した。 だからこそ。 実行委員に立候補した。 百合にも事情を話すと、笑顔でOKサインをくれた。 行事も終わり、言葉に出さずとも恋を終えることは確実にできた。 そして。 その実行委員会の責任者が佐倉優だった。 だからといって、特別話したわけではない。 記憶にある限り、言葉を交わしたのは一度だけ。 他愛ない会話で、中身を覚えていない。 それでも。 何故か優に惹かれ、それから度々優に声をかけるようになった。 優も桜を見つけると声をかける。 いつもクールで真面目な顔でいる優は一見近寄りがたい雰囲気もあるが、若さと生徒思いな所から隠れて人気があった。 初めは近寄りがたいと思っていたが、話してみると優の笑顔や言葉の優しさに温かい気持ちになった。 あまり感情を表に出さない不器用な人。 そう感じた。 そして、そこがまた魅力的だった。  
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