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「トイレ、長かったね。」
「ごめんね。」
「……またにやけてる。」
「うそ。」
顔に手を当てると、百合は「うそ。」と笑う。
「やっぱり好きな人いるんでしょ。」
「えぇ。」
「いい加減言ってよ。」
「うーん……。」
人に言えない。
この恋は口に出せない。
それに言ったとしても。
現実を見てないと、百合に笑われるのがおちだと思っていたからだ。
「好きな人はいるけど、まぁ……ね。」
「やっぱりいるんだ。先輩以来聞いてなかったから、安心した。」
「でも、恋と言うかなんと言うか。」
「誰?同じクラス?」
「まさか。」
「同じ学校?」
「……一応。」
――先生だから学校で間違ってはいないよね。
「誰?」
「秘密。まだ言わない。」
「いいじゃんか、教えてよ。」
「嫌だよ。」
笑い合っていると、教室のドアがガラリと開いた。
驚いて向くと、そこには先ほどより少し暑そうにしている優が立っている。
「用がないなら、早く帰りなさい。」
「はい。」
「あと、ちょっとだったのになぁ。」
「しつこいってば。」
カバンを取り、教室から出る時に優にタオルを渡した。
百合は先に階段を降り始めている。
「佐倉先生。まだ片付けするんでしょ、タオル使っていいですよ。」
「別にいいよ。汚れるから。」
「タオルは汚れと汗を拭くものです。はい。」
無理矢理、手にタオルを押し付けた。
あまりに押し付けたからか。
優はそのタオルを受け取り、「ありがとう。」と笑って言った。
「仕事頑張ってくださいね。」
「雑用だけどな。」
「そりゃあまだ若いんだもん、当たり前だよ。」
「だったら、もっと若いお前がやってくれよ。」
「嫌です。受験生だもん。」
悪戯に笑うと、優は頭を小突く。
「桜ー。」
「うん、行く。」
階段の下から聞こえる声に返事をする。
「じゃあな。」
「待って。先生の下の名前って何ですか?」
「優。優しいって字で優。知らなかった?」
「うん。ありがとうございます。」
「でも、何で?」
「佐倉先生だと、自分を呼んでるみたいだから。」
「あぁ、確かに。」と優は笑う。
「だから、優先生って呼びます。いいですか?」
「いいよ。その代わり高いからな。」
「はいはい、じゃあバイバイ。」
「おう。」
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