●春音

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「おはようございます、……優先生。」 「おう。」 いつものようにすれ違う職員室前の廊下。 少し目を合わせ、涼しい顔してすれ違う。 にやけそうになる顔を精一杯抑える。 今日は昨日までとは違う。 「優先生。」と呼ぶようになった。 好きな人を名前で呼ぶ。 それはとても特別なこと。 優が職員室に入ったのを確認してから、抑えていた感情を出して、笑顔になった。 周りから見たら、一人で笑う姿は変な人。 それでも笑わずにはいられない。 「おはよう。」 教室に入り、隣の席の百合に声をかける。 低血圧なのに朝一の満面の笑みだからか百合は不思議がる。 「なんでもないよ。」とその笑顔で言って、席につく。 「気持ち悪いよ。」 「そんなことないよ。普通、普通。」 「好きな人と何かあったの?」 「さぁ。どうでしょう。」 「桜を一日中監視しなきゃ。」 「やめてよ。」 百合と話していると、中居先生が入ってきた。 担任の中居先生。 桜達が一年生の時に学校にきて、このクラスを三年間受け持っている。 学級委員の声で挨拶をして、朝のHRが始まる。 「今日は授業変更で、国語は佐倉先生が来るからな。」 「佐倉先生か。桜、仲良かったよね?」 「……。」 「桜?」 「……えっ、なに?」 「だから、佐倉先生。仲良かったよね?」 「まぁ、人並み程度に。」 嬉しいことは続くもの。 そう実感した。 絶対に受けれないと思っていた、優の授業。 それを受けることができる。 元々の国語の先生は風邪で休みらしい。 不謹慎だけど喜んだ。 ――優先生に会える……。 その時間を待ち焦がれてるのは、きっと教室の中でも一人だけ。  
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