●春音

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国語の時間への予鈴が鳴る。 ざわついていた教室も、その音でみんなが席につき始める。 桜と百合は元々座って話していた。 百合は先ほどからずっと桜を監視している。 その視線に完全無視をきめて、国語の古典の教科書とノートを出していた。 本鈴が鳴る。 合図のように桜の心臓も鼓動が速くなる。 それと同時に、教室のドアを開けて優が入って来る。 ドアから教卓まで……、ずっと目で追っていた。 挨拶を終えて席につく。 いつもとは違う教卓に立つ人物に、若干気まずい空気が流れるも。 一人だけは真顔のクールな優を真っ直ぐ見つめる。 「佐倉です。まぁ、何人かは話したことあるかな……っと、一ノ瀬だけか。」 「えっ、あっ、はい。」 急に呼ばれた名前に、驚き大きな声で返事をした。 優はいつもみたいに、「元気で良い。」と笑う。 「授業は進めることできないし、テスト近いから復習をやるか。ちょっとノート確認。一ノ瀬、ノート見せて。」 「はい。」 教卓から隣に歩いて来た。 前から二番目の席。 こんなに前で良かったと感じたのは初めてのこと。 「もうこんなに進んだんだ。俺より早い。」 「先生、三年生教えてた?」 「一個上の卒業した奴らの担任してただろ。だから、だいたいわかるんだよ。」 「そうだったんですか。知らなかった。」 「よし。じゃあ、始めるからしっかり聞けよ。」 優は教卓に戻っていき、黒板にポイントを書いていく。 目の前を見ると優がいる。 この現実がたまらなく嬉しい。 「この訳を一ノ瀬。」 「はい。」 名前を知られているためか、何回も当てられる。 古典が苦手な桜は答えるのに多少時間がかかるものの、優の説明がわかりやすいために少しずつ解けるようになった。 気がつくと、終わりを告げるチャイムが鳴る。 初めてこんなに集中した。 初めてこんなに授業が楽しいとも思った。 優は挨拶を済ますとさっさと教室を出た。 桜も後を追う。  
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