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国語の時間への予鈴が鳴る。
ざわついていた教室も、その音でみんなが席につき始める。
桜と百合は元々座って話していた。
百合は先ほどからずっと桜を監視している。
その視線に完全無視をきめて、国語の古典の教科書とノートを出していた。
本鈴が鳴る。
合図のように桜の心臓も鼓動が速くなる。
それと同時に、教室のドアを開けて優が入って来る。
ドアから教卓まで……、ずっと目で追っていた。
挨拶を終えて席につく。
いつもとは違う教卓に立つ人物に、若干気まずい空気が流れるも。
一人だけは真顔のクールな優を真っ直ぐ見つめる。
「佐倉です。まぁ、何人かは話したことあるかな……っと、一ノ瀬だけか。」
「えっ、あっ、はい。」
急に呼ばれた名前に、驚き大きな声で返事をした。
優はいつもみたいに、「元気で良い。」と笑う。
「授業は進めることできないし、テスト近いから復習をやるか。ちょっとノート確認。一ノ瀬、ノート見せて。」
「はい。」
教卓から隣に歩いて来た。
前から二番目の席。
こんなに前で良かったと感じたのは初めてのこと。
「もうこんなに進んだんだ。俺より早い。」
「先生、三年生教えてた?」
「一個上の卒業した奴らの担任してただろ。だから、だいたいわかるんだよ。」
「そうだったんですか。知らなかった。」
「よし。じゃあ、始めるからしっかり聞けよ。」
優は教卓に戻っていき、黒板にポイントを書いていく。
目の前を見ると優がいる。
この現実がたまらなく嬉しい。
「この訳を一ノ瀬。」
「はい。」
名前を知られているためか、何回も当てられる。
古典が苦手な桜は答えるのに多少時間がかかるものの、優の説明がわかりやすいために少しずつ解けるようになった。
気がつくと、終わりを告げるチャイムが鳴る。
初めてこんなに集中した。
初めてこんなに授業が楽しいとも思った。
優は挨拶を済ますとさっさと教室を出た。
桜も後を追う。
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