白い世界

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「ここは…天国なの?」 少しばかり落ち着いた私は、おずおずと尋ねてみた。 先ほどまでは消毒液の香りに満ちた、病院のベッドで沢山のチューブに繋がれていた。 けれど今の自分の腕には、注射針の跡すら見当たらない。 「天国…。うん、地上の人はそう呼ぶね。 死んだ人が行く場所だと。 けれど違うんだよ? 死んだんじゃない。 君は、今生まれて来たんだ。」 死んだ自分は生まれたと言われ、私は怪訝そうに眉をひそめる。 「今日が誕生日ってこと?」 いぶかしげな私とは正反対に、少年は心から嬉しそうな表情をしていた。 「そうだよ!生まれた人にはこう言うんだ。『おめでとう!あなたはよく頑張りました!お帰り!…』えっと…」 そこまで言って、突然彼は困った顔になった。 あまりに大きな声を出すから私は驚いたのに、急に言葉を止められるとどのように反応してよいか分からない。 「えっと…ごめん。名前が分からないんだっけ?」 「名前はサヤカよ?」 「いやいや、違うんだ。それは地上で使っていた呼び名だろう? 誰にでも、本当の名前があるんだけれど、今はまだ分からないな…」 私は「サヤカ」という名前をとても気に入っていたから、別に名前があると言われても嬉しくはなかった。 むしろ、自分を否定されたような気さえする。 「まあ、それもすぐに分かるさ。神様が教えてくれるからね」 私は彼に手を取られ、ようやく立ち上がった。 少し足がふらふらする。 まるで自分が初めて立ち上がったように上手くバランスが取れないのと、真っ白な地面が堅いような柔らかいような、冷たいような温かいような、何とも奇妙な肌触りなためだと思う。 「神様がいるの?」 「もちろんいるよ。 とてもとても、優しい方なんだ」 少年は穏やかに微笑み、空を仰いだ。
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